介護事故について
介護サービスの提供の過程で、利用者に怪我等の何らかの不利益が生じ ることがあり、ここではこれを介護事故と呼びます。介護事故の類型としては、転倒、誤嚥、転落、失踪等さまざまなものがあり、事故防止体制構築のためのガイドラインやマニュアルが発出されているところです。
また、介護分野のみでなく、障がいを持っている者、児童も含めた福祉サービス全般に関して、厚生労働省は、2002(平成14)年3月28日、「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指 針~利用者の笑顔と満足を求めて~」を発出しています。
同指針では、リスクマネジメントを進める体制整備、事故防止の諸方策に関する指針、事故発生後の対応指針等が記載されています。
他方、これまで、介護施設における死亡事故を含めた事件件数やその内容に関する全国的な統計はありませんでした。
厚生労働省は、現在(2018 年10月)、初の事故の実態調査を実施して、死亡事故は1500人を超えました。
ここでは、介護事故が発生してしまったとき、どのような理由で責任を負うかについて、一般的な説明をします。
債務不履行責任
サービス提供者(介護施設の設置者、介護サービスの経営主体)と利用者の間には、介護サービス提供にかかる契約(準委任契約)があります。
この契約の本質は、その名のとおり、サービス提供者が、利用者に対して、介護サービスを提供し、利用者(ないし市区町村等)が対価を支払うというものです。
そして、サービス提供者は、契約に定められたサービスを提供する義務を負うことは当然ですが、その付随義務として、介護サービスの提供過程において、利用者の心身の安全を確保するよう配慮する義務を負います(安全配慮義務といいます)。
仮に、サービス提供者が、この安全配慮義務に違反し、結果として利用者に怪我等の損害が発生した場合には、サービス提供者は契約上の義務に違反した(債務不履行といいます)として、その損害を賠償する責任を負います。損害の賠償の方法は、金銭賠償です。
また、安全配慮義務の内容は、介助の内容や利用者の性質といった具体的な事情によって定められます。
不法行為責任
上記のように契約関係にない場合でも、サービス提供者の職員が、故意・過失(注意義務違反)により、利用者に怪我を負わせる等の損害を発生させた場合には、不法行為責任として、その損害の賠償をする責任を負います。
ここでいう注意義務違反とは、内容としては上記の安全配慮義務ほぼ同様の内容になります。
また、サービス提供者は、その職員が介護サービスの提供の過程で利用者に加えた損害を賠償する責任を負います。
このように見ると、債務不履行による責任と不法行為による責任に違いがないとも思えますが、上記のとおり職員への責任追及は契約関係を前提としない不法行為に基づいてなされます。
土地の工作物の設置又は保存の瑕疵 ・サービス提供者の職員に過失が存在しない場合であっても、介護施設の物的設備に欠陥があった場合、この欠陥によって利用者に生じた損害を賠償する責任を負います。