利用者から介助拒否された
介護の利用者が施設内のトイレにおいて転倒し、骨折してしまった。
事故の前、施設職員は、当該利用者をトイレまで付き添い歩行介助していたのですが、トイレに着いたときに利用者からトイレ内での介助は拒否されていた。
こういった事例の相談は多いです。このような場合、介護事業者としては、どのような対応が求められるのでしょうか?
介護事業者に求められる対応
「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針~利用者の笑顔と満足を求めて~」では、排泄時の転倒事故への対応策等について、次のように記載しています。
排泄時の転倒も、トイレ使用時と居室等においてポータブルトイレを使用する時では若干異なりますが、「便所内の移動時」「衣類着脱時」「排泄時」『排泄後の清拭時」の場面に細分化することができ、大きくは(1)利用者自身のふらつきによる転倒、(2)利用者自身が足を滑らせて転倒、(3)介護職員のふらつきや転倒による利用者の転倒、(4)不適切な座位・立位による転倒、(5)利用者の発作による転倒、に分類することができます。
発生要因としては、利用者の状態把握が不十分であり、危険予測ができていない、見守りが不十分だった、介助ベルトの固定確認が十分ではなかったといった要因の他、トイレ箇所数の不足、手すりの形態や設置数の不備、床のすべりやすさといったことが挙げられています。
また、『職員数が足りない」「トイレ介助の順番が徹底していない」「本人のてんかん発作や付き添いの拒否」等の要因も見られています。
事例発生後の対応策としては、確実な介助方法の徹底、環境の改良(段差解消、滑り止め)等がとられています。
このように、排泄時の転倒の原因の1つとして、付き添いの拒否が挙げられています。
トイレの介助となると、利用者のプライバシーや人格の尊厳と解除の必要性という相矛盾する事項を考慮しなくてはなりません。
裁判例においては、介護の拒否が、施設側の注意義務を軽減、免除させるか、利用者の過失による相殺という形で争われます。
利用者による介護拒否の場合
一般に、介護サービスを提供する事業者は、介護サービス提供にかかる契約上、利用者の心身の状態を適切に把握し、施設利用に伴う転倒等の事故を防止する安全配慮義務を負います。
他方、社会福祉法3条は、「福祉サービスは、個人の尊厳の保持を旨とし、その内容は、・・・その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように支援するものとして、良質かつ適切なものでなければならない」としています。
介護施設は利用者にとって生活の場であり、その場における自由が保障されてこそ個人の尊厳が保持されます。
介護事故の予防を過度に強調しすぎると、利用者の自由が拘束され、個人の尊厳の保持ができなくなるほか、利用者の心身にも悪影響を及ぼす可能性があります。そして、具体的な介助を受けるかは、第極的には、サービス提供契約におけるサービス事受者(利用者)に決定権があるといえます。
では、施設職員の具体的な介助の申し出を利用者に拒否された場合、介護職員は当該介助をしなくとも良くなるのでしょうか。
まず、認知症等により介助の必要性について認知判断する能力が減退していたり欠いている場合には、利用者から単に拒否の態度をとられたことをもって、直ちに介助措置義務が免除されないことは言うまでもありません。
次に、判断能力に問題のない利用者が拒否の意思を表示した場合について、介助措置義務が免除されるかが争われた裁判例があります。
当該裁判例では、利用者の歩行能力及びトイレの形状等から利用者の転倒及び転倒による結果の大きさを予想し得ることを介助義務の前提として摘示しつつ、介護の専門知識を有すべき施設職員は、利用者に対し、介護を受けない場合の危険性と介護の必要性を尊門的知見から「意を尽くして説明し、介護を受けるように説得すべきであり、それでもなお要介護者が真摯な介護拒絶の態度を示したというような場合でなければ」介助義務を免れないとしました。
当該裁判例に対しては、介護職員のすべき措置が判然としないとか、トイレで用を足そうとドアを閉めた利用者に対して意を尽くして説明をして説得を試みることをしても結果回避の実効性に乏しいといった議論があります。
少なくとも、利用者との日常的な介助や会話において信頼関係が醸成していた場合には「説明・説得・真摯な諾否の回答」を円滑に行うことができますし、事後的に紛争まで発展する可能性も軽減できるでしょう。
他方、利用者の性質等により円滑な説明等が難しい場合には、説明・説得の状況や時間的余裕がなかったこと等を事故報告審に詳細かつ正確に記載したり、複数名で対応することで証言を得る等の対応も重要になります。