医療法人のM&A(事業譲渡)の法律的ポイントを解説

病院クリニック・介護事業の法律

医療法人の事業譲渡について

医療法人のM&Aについて、よく行われているのは事業譲渡です。

医療法人Aの全事業(病院施設等)を他の医療法人Bに事業譲渡することです。事業譲渡とは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡することです。

医療法人Bは、医療法人Aの事業を譲り受け、新たに病院を開設することになりますので、病院開設に際して開設地の都道府県知事の許可(医療法7条1項)、及び構造設備使用検査を経て、許可証の交付(医療法27条) などの行政手続を行わなければなりません

一方、医療法人Aは、全事業を譲渡した後、社員総会の決議と都道府県知事の認可を得て、解散させることになります。

また、医療法人Aは、事業譲渡にあたって、引き続き勤務する従業員や入院を継続する入院患者から個別に同意を得る必要があります。

医療法人の出資持分譲渡

次に、医療法人Aを存続させたまま、出資持分を譲渡し、社員を交替させることで、実質的に医療法人Bが医療法人Aを承継する方法があります。

承継プロセスとしては、まず、買い手側医療法人Bの関係者で医療法人Aの理事長候補者が、医療法人A の社員総会の決議を経て、医療法人Aの社員として就任します。この時点で、医療法人Aの社員総会に おいて、既存の社員からも賛同を得る等により、社員の頭数で社員の過半数(可能であれば100%)を押さえておくことが重要です。

次に、医療法人B の関係者である自然人・法人C(医療法人を除く)が、売り手側から医療法人Aの出資持分を譲り受けます(出資持分の譲渡)。

その後、C(医療法人Aの社員)の下、医療法人Aの社員総会で、新理事及び新理事長を選任します。

最後に、売り手である医療法人Aの既存の社員が必要に応じて退社 することで、医療法人の承継を完了させます。

この手法によると、病院開設のための都道府県知事の許可等の手続は不要になります。また、従業員や入院患者の移転はないので、個別に同意を得る必要もありません。

入社・退社方式

売り手側の医療法人Aの社員が定款の定めに従って退社し、出資持分に応じた払戻しを受け、同時に社員総会の決議により、買い手側の医療法人Bの関係者が医療法人Aの社員として入社することで、社員を交替する方法があります。

なお、買い手側の入社に際して、入社する社員全員が医療法人Aに財産を出資する必要はありません。

この方法によっても、都道府県等に対す る行政手続は不要です。上記の出資持分譲渡方式との違いは、課税面にあります。

社員は、社団医療法人の構成員であり、社員総会の承認を得てなりま す。自然人だけでなく法人(営利を目的とする法人を除く)も社員になることが可能です。

未成年者でも、自分の意思で議決権が行使できる程度の能力を有していれば(義務教育終了程度の者)社員となることができるとされています。

なお、出資持分のある社団医療法人において、社員の地位は出資持分と必ずしもセットではなく、出資持分を全く有しない社員も存在します。社員総会では 、出資持分にかかわらず1社員1議決権となっています。