医療法人の事業承継の方法と類型について解説

病院クリニック・介護事業の法律

医療法人の法的性質

医療法人とは、病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、 介護老人保健施設または介護医療院を開設することを目的として、医療法の規定により設立される社団または財団をいいます。

医療法人は、公益法人ではありませんが、剰余金の配当が禁止されているので、営利法人とも異なります。

社団または財団とあるとおり、財団の場合もありますが、平成31年 3月末日時点で、約99.3%が社団となっています(厚生労働省「医療法人数の推移について」)。

社団の場合には、出資持分(以下「持分」といいます。)がある場合と持分がない場合があります。

持分がある社団は、平成19年施行の改正医療法によって新たに設立はできなくなりましたが、経過措置によって当分の間は存続することになっており、平成31年3月31日時点に おいても、医療社団法人全体の72.15%にのぼります(厚生労働省「医療法人数の推移について」)。

持分とは、医療法人の財産に対する出資割合に応じた財産権のこと で、持分に関する定めがある法人には、通常、定款に、以下が置かれます。

  • 社員が退社時に持分の払戻しを受ける権利の定め
  • 解散時の残余財産分配に関する定め

他に、医療法上の一般の医療法人と異なる「社会医療法人」(医療42 の2以下)や、税法上の概念として、租税特別措置法に基づく「特定医療法人」(租特67の2) がありますが、いずれも持分は認められていません。

出資と社員資格について

出資持分は、持分という意味では株式会社における株式に該当しますが、社団医療法人の場合は、社員総会において社員一人が一個の議決権を有し、株式会社と異なり資本多数決の原則は採られていません。出資をしなければ社員になれないわけでもありません。

また、法人が医療法人に出資することや社員になることができるかについては、法令上の明文規定はありませんが、医療法7条4項の解釈から、営利法人は、医療法人に出資することはできるが、社員として医療法人の運営に参画することはできないとされています。

営利法人ではない法人については、出資のみならず社員になることができるとされています。このように、営利法人は社員にはなれないため、退社して出資持分の回収を行うことはできず、解散による清算時に余剰金の分配を受け得るのみであり、投資の意味は株式会社への投資とは異なります。

社団医療法人の組織

社団医療法人の組織は、意思決定機関として社員総会が設置され、上記のとおり、社員一人が一個の議決権を有し、社員資格として出資は不要です。

社員総会において、3名以上の理事と1名以上の監事が選任され、法人を代表する理事長は、理事の互選によって医師または歯科医師である理事から選任されます。

なお、開設した病院には「管理者」を置かなければなりませんが、理事の一人は管理者(通常は「院長」と呼ばれます。)を選任しなければなりません。また、一般には社員が理事も兼任している場合が多いといえます。

なお、医療法人の社員は、出資持分の有無にかかわらず一人一議決権を有するので、事業承継に際しては株式会社の場合のような資本構 成への配慮は問題になりません。

医療法人の種類と事業承継の方法について

医療法人の事業承継の方法としては、法人格の変更を伴わないもの 、法人格の変更を伴うもの、事業譲渡があります。

法人格の変更を伴う方法としては、医療法人の合併や分割があります。合併の場合には、合併当事者となる医療法人に出資持分があるか 否かによって手続やルールが異なります。

法人格の変更を伴わない方法としては、事業を保有する医療法人はそのままにして、「社員の交代」のみを行う方法があります。出資持分の定めがある医療法人の場合には、出資持分の処理(持分の譲渡または退社および入社手続)を伴いますが、持分の定めがない医療法人の 場合には、社員や役員の交代のみで行うことができます。譲渡の対価は、退職金の支払という形で支払われることが多いです。

なお、出資持分の譲渡については、その可否について理論上問題があるとされていますが、実務では一般的に行われているのが実情です。

さらに、医療事業の一部を譲渡する場合には、事業譲渡という方法もあります。

平成28年施行の医療法改正によって医療法人にも「分割」 という方法が認められましたが、対象となる医療法人が限られているため、事業の一部譲渡という方法も検討しましょう。