院長の管理監督者性と残業代の問題について弁護士が解説

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病院クリニックの院長の労働問題

よくある相談にあるのが、経営する診療所で勤務する院長を管理監督者として扱っており、時間外労働に対する割増賃金を支払っていないけど、大丈夫かというものです。

一般に、法定時間外に労働(時間外労働や法定休日労働)をさせる場合、36協定の締結や割増賃金の支払いが必要になることになります。

ただし、管理監督者に該当した場合、労基法上の労働時間等の規制の適用を除外されます。

そのため、実質は管理監督者ではないのに、管理監督者として扱い、割増賃金の支払いを行わないといったことが行われます。

管理監督者の要件

管理監督者とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきとされています。

「管理監督者」に当たるかについては、職務内容、資任と権限、 勤務態様、待遇等を検討の上、判断されますが、最近の東京地裁の 裁判例等では次のとおり整理されています。

  1. 職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にある
  2. 部下に対する労務管理上の決定権等につき、一定の裁量権を有しており、部下に対する人事考課・機密事項に接している
  3. 管理職手当などの特別手当が支給され、待遇において、時間外手当が支給されないことを十分に補っている
  4. 自己の出退勤を自ら決定し得る権限がある

前述の要件を満たした場合、「管理監督者」として労基法の労働時間、休憩および休日に関する規制の適用が除外され、時間外労働 や法定休日労働に対する割増賃金の支払い等の必要がなくなります。

ただし、深夜労働に関する規制は適用されることに注意すべきです。また、管理監督者であっても、使用者は安全配慮義務を負っているため、健康管理の観点か ら、ある程度の労働時間管理は必要となります。

病院クリニックとしての対処法

クリニック・診療所の院長は、管理監督者性が比較的肯定されやすいです。ただし、飲食業等においては、店長であって も、いわゆる「雇われ店長」の事案について管理監督者性が否定さ れた裁判例が複数あります。

医師の場合、給与が比較的高額であ り、院長の権限も広いことが多いと思われますが、診療所の院長であることだけで管理監督者性が肯定されるわけではなく、実際の権限や待遇等を踏まえて管理監督者性を判断する必要があることに注意が必要です。

医師を管理監督者として扱う場合、リスク対応としては、管理監督者としての処遇を明らかにしておくべきです。

たとえば、経営等に関する重要な会議への出席権限、部下(医師) や看護師)の人事評価の権限、採用にあたっての権限等を内規等で、明確にした上で、待遇としても診療時間以外の部分の出退勤時間は本人に委ねる、管理監督者に対する手当と分かる名称の手当を支払う、全体としても他の医師よりも高額の給与になる給与体系を設定するなどの対応が考えられます。