患者からの暴力があった!病院側が職員に対する責任
病院の看護師が、入院患者から暴行を受け就労することができなくなってしまった、適応障害を発症してしまった。
病院が、当該看護師に対して、損害賠償責任を負うのはどのような場合でしょうか。
病院が職員に対する義務
一般に、医療機関(使用者)は職員に対する安全配慮義務を負っており、労働者が、その生命および身体等の安全を確保しつつ労働をすることができるよう配慮するものとされています。
医療機関(使用者)に安全配慮義務違反がある場合、医療機関(使用者) が労働者から、債務不履行に基づく損害賠償を請求されることがあります。
医療機関において、看護師等の労働者の生命および身体等が害される場合としては、せん妄状態、認知症等により不穏な状態にある入院患者から暴行を受けて傷害を負うようなケースが想定されます。
そこで、医療機関(使用者)の安全配慮義務違反を理由とした損害賠償請求が認められる要件について説明し、医療機関(使用者)が具体的にどのような対応策を採っておくべきかという点等につき、検討します。
安全配慮義務の内容
労働契約上の安全配慮義務については、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用しまたは使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」であるとされています。
安全配慮義務の具体的な内容としては、以下の例が挙げられます。
- 安全な職場環境の整備
- 長時間労働、過重労働の防止
- 労働者の健康状態に即した適切な措置
損害の発生・損害額
安全配慮義務違反による損害としては、職員の生命および身体等が侵害されたことによる損害(たとえば、治療費、通院交通費等)が生じることが可能性があります。
また、使用者の安全配慮義務違反によって労働者が傷害を負い、当該傷害を理由として勤務ができない場合には、休業損害が生じ得ます。
さらに、労働者が負った傷害につき後遺障害が残った場合にでは、後遺障害による逸失利益も損害として生じ得ます。
その他の損害として、慰謝料、弁護士費用等が挙げられます。
このような損害については、交通事故の事案において一般的に用でいられる損害賠償の基準が参考になるものとされています。
損害との因果関係
安全配慮義務違反と損害の発生・損害額との間に因果関係が存在することが必要です。
なお、業務上の負傷および疾病については、使用者に対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求とは別に、特別保険給付(療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付等)を受けることができます。
業務上の負傷および疾病と認定されるためには、業務起因性が認められることが必要です。この業務起因性と、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求における因果関係とは、ほぼ同じものとされています。
そのため、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求における因果関係の検討にあたっては、労災認定の業務起因性判断の際の認定基準が参考になります。
過失相殺
安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求が、上記の要件を満たしていたとしても、労働者自身が自己の健康管理義務を怠っていたような場合には、過失相殺が認められ、過失割合に応じた減額がなされることがあります。
過重労働を原因として研修医が突然死をしたという事案において、裁判所が、病院側の安全配慮義務違反を認めた上で、労働者は医師免許を有している研修医であり、自己の心身の状況を自ら管理する能力は十分にあったとして労働者側にも自らの健康保持に努める義務があるとし、健康への異変に気付きながら健康診断を受けるなどの措置を講じていない点をとらえ、職員側の過失を2割とする過失相殺を認めた裁判例があります。
損益相殺
労働者の勤務中の負傷および疾病について業務起因性が認められる場合には、労働者は労災保険給付を受けることができます。
このような労災保険給付については、損益相殺として、安全配慮義務違反に基づく損害賠償額から控除することができます。