介護施設の不祥事対応
- 介護支援専門員から、施設内での虐待について相談を受けた
- 他の職員からも事情を聞いたところ、施設内で男性職員から高齢者に対する虐待行為が行われている可能性があることが判明した
そんな事態のときに、介護事業者側は、今後どのように対応したら良いのでしょうか?
養介護施設従事者等による虐待
高齢者虐待防止法は、第2章で養護者による虐待の防止を定め、第3章で高齢者の福祉・介護サービス業務に従事する者(以下「養介護施設従事者等」という)による虐待の防止等について規定しています。
そのような中、虐待があった場合には、以下の方法で対応を進めていきます。
施設内での聴き取り調査(事実の把握)及び記録
高齢者本人や家族、職員らから施設内虐待の相談を受けた場合、まずは各担当の責任者へ報告した上で、施設長にも報告することが求められます。その後、高齢者本人や、当該職員、その他の職員への聞き取りを行い、虐待事実の把握を行います。
また、施設内で調査を行った経緯や結果についてはすべて記録として残しておく必要があります。
市町村に対する通報
高齢者虐待防止法は、養介護施設従事者等に対して、自らが業務に従事する養介護施設又は養介護事業において、高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村に通報しなければならないと規定しています。
ここで重要なのは、施設内での聴き取り調査の結果、確実に虐待があったと判断できる場合だけではなく、「虐待を受けたと思われる」状態であっても通報しなければならない点です。
「虐待を受けたと思われる」とは、「一般人であれば虐待があったと考えられることには合理性がある」という、広い趣旨で捉えるべきです。
施設側からすれば、仲間である職員をかばいたいという思いや、職員による虐待を市町村に通報することで施設側の責任問題につながるおそれもあり、通報をためらう可能性も否定できません。
しかし、仮に施設側が虐待の事実を隠ぺいしたとしても、職員や高齢者の親族等からの通報によって事実が発覚することは少なくありません。
速やかに市町村に事実を報告し、対応していくことが重要です。
虐待の事実を隠ぺいし、後からその事実が発覚した場合には、民事上の責任が拡大したり、行政処分の判断が厳しくなるなど、施設側にとっても良い結果にはつながりません。
早期に事実関係を確認し、しかるべき対応を取ることが望まれます。
通報者の保護
高齢者虐待防止法では、次のことが定められています。
- 刑法その他の法律により福祉サービスに関わる専門職に対して課せられている守秘義務によって、養介護施設従事者等による高齢者虐待の通報を妨げられない
- 養介護施設従事者等による高齢者虐待の通報等を行った従業者等は、通報等をしたことを理由に解雇その他不利益な取扱いを受けない
これらの規定は、養介護施設等による高齢者虐待が施設内で隠ぺいされず、速やかな通報につなげることを目的として設けられたものです。
もっとも、これらの規定が適用される「通報」には虚偽であるもの及び過失によるものが除かれていることに注意が必要です。この点は、養護者による高齢者虐待の発見・通報の場合とは異なる部分です。
この「過失」について、虐待があると考えたことに一応の合理性があれば過失は存在しないと解すべきです。
事業者自身による予防・発見のための体制づくり
養介護施設従事者等による虐待を予防するためには、日ごろから施設側が虐待の発生を予防する体制を整えておくことが必要です。
具体的には、次のようなことが挙げられます。
- 研修の実施
- 苦情処理体制
- 業務日誌(ケース記録)の適切な作成及び確認体制の整備
どのような体制であっても、実際に職員に周知され、虐待が発生した場合に速やかに職員間の連携が取られることが必要です。
市町村への通報義務が発生することも職員に周知されていなければなりません。